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面影草  10 [短編]

 たった一人の王子様の出現に二人の生活は一変した。目が回るような毎日。
実家でみんなにちやほやされたボクには困った。
 抱きぐせがついて、とうとう私は一日中ボクを抱っこしたりおぶったり。
仕事が終わると風のように飛んで帰って来る彼を待って、買い物に出かけたり
食事の支度をしたり。こんな時彼の主夫ぶりには本当に助かった。
 こんなボクには振り回されながらも幸せな毎日が過ぎて行った。
 専業主婦の私は自分が思っていたより自然に主婦してるじゃない..と自画自賛
彼も予定通りのいい夫いい父として仕事も家庭も充実していた。

 三年後彼は仕事上のことで想像もしなかったトラブルに巻き込まれた。
自分が信じて積み上げて来たものが音を立てて崩れ去った。
自分の不注意ではなかったか。誰かに迷惑をかけてしまったのではないか。
 毎日苦悶する彼を私は黙って見ていることしか出来なかった。
 最初に彼から事の成り行き聞いた時から私は彼を信じた。彼の仕事を信じた。
そして私に出来ることは彼のために祈り続けることだった。
 彼は決断した。結論を聞いて私も彼の決断を正しいと思った。

 私たちは幸せな新婚時代を過ごした思い出のN市を去ることに決めた。
 彼か転職することにも、義父の気持の詰まった、そして私たちの魂の絆と思える
ほど愛着のある家を処分することにも、二人で悩み真剣に考えた末での人生の
一つの選択だった。
 それでもお互い言葉にはしなかったけれど、これから住むことになるМ市が二人が
出会って素敵な青春を過ごした懐かしい街、私の両親のいる美しい街であることが
何よりも嬉しかった。
そしてそれらは、さまざまな不安を抱えて再出発する私たちの大きな支えとなった。


 私たちは市の郊外に開発されたばかりの七十区画ある団地に第二の新居を構えた。
 夫は今までとは全く違う新しい仕事に必死に取り組み、私もボクも頑張っていつも
笑い声の絶えることのない、楽しい家庭作りに精をだした。
 顔が見たいと思えばいつでも逢える父母や弟たちや友だちが私たちの底力となった。

 ここで私たちは待望の女の子を授かった。

 私が希み想像していた色白で、目はぱっちりとはいかなかったけれど、可愛くて元気な
女の子。
 彼はまた子煩悩を絵に描いたようなパパになって、あれこれと世話をやき、自分も随分
元気を貰ったようだった。
 あの泣き虫だったボクも三歳になり今は優しいお兄ちゃんぶりを発揮していつも彼女の
側を離れず、女の子のようにお人形と遊んでいた。

 近所にも人が増え、子供たちにもいい遊び相手も出来、私もここで生涯の友ともいえる
心通う素敵な女性に出会うことが出来た。
 相変わらず苦しい家計との格闘に明け暮れる私。、時にはいらいらしても陽のあたる
縁側で仲良く遊んでいる子供たちを見ると、つい笑顔になってしまう。
 若い時、彼と二人で描いていた理想の結婚生活が、曲がりなりにも出来つつあることに
気がついて、胸の底の方からほんわかした暖かさが立ちあがって来る。
 そして変わらぬ彼の優しさを本当に嬉しく思い、また頑張る気持が湧いてくるのだった。





 

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リンさん

子供が小さいのに転職とは、大変な決断ですね。
だけど前向きで気持ちがいいです。
両親の仲がいいと、子供たちも安心して遊べるんですね。


by リンさん (2016-10-29 11:31) 

dan

有難うございます。
世の中やっと落ち着き高度成長期の始まりの
ころです。
まだ皆が貧乏だったけど前途に希望が持てた
時代でした。
by dan (2016-10-29 13:31) 

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