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秋霖  [随筆]

 九月ももう終わりです。

本当によく雨が降りました。出かける予定のない日の雨はどちらかというと好き。

 庭を眺めても雨に濡れた木々は、それぞれの緑を競うように艶々としています。

まるで灼熱地獄のようだった夏の辛さを取り戻しているかのように。

 田圃のあぜ道には彼岸花が赤く燃え盛り、一際鮮やかにみえます。

その赤に負けないほどの黄金色の稲穂の美しさは、陽の光に映えるのとは又

違った風情があります。

 私の秋明菊も花芯の黄色、花びらの白、葉の濃い緑を雨にさらしてしっとりと。

 続く雨音はしとしとだったり、ざざーっと来たり、おしなべて静かな感じです。

 この環境の中で私が感傷的にならない訳がありません。

 しばらく瞑想して心が落ち着くと得意の空想が始まります。
 
 これこそ私の自由、誰にも迷惑はかからないしお金もかからない。

時にはにやにやしている自分に気が付いて吹きだしたり、突然涙がほろり。

 静かで優しい時間が流れ、コーヒーをいっぱい。


 それでも最後にはやっぱり二人がいいなあと思ってしまう私がいます。

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いとしの雨男到来 [エッセイ]

 三連休と年休を交えて少しゆっくり出来そうだと、娘夫婦が帰ってくることに

なりました。

 婿殿が一緒というのは珍しく、あれこれ計画を立てて楽しみにしていました。

ただ心配なのは滞在予定の一週間、天気予報は台風も含めて一日を除いて

雨と曇りのマークです。

 つい笑ってしまう私、何しろ彼は自他共に認める雨男。私が上京しても彼が

一緒に行く日は大体雨。私が大大お天気ばあさんなのでせいぜい曇り。

 
 そんな彼がたった一日の晴れの日に、昼前二人で帰ってきました。

ところがわが家へ帰る前に駅からレトロな鍋焼きうどんを食べに繁華街に

直行するというのです。

 ここの鍋焼きうどんはガイドブックでも人気で、無くなり次第店が閉まります。

 六十年くらい前からあって私も若い頃はよく行ったものです。今まで息子も

娘も帰省の度に何度かいったのですが、十二時半にはもう閉まっていて残念

がっていました。

 今回は間にあった、まず第一の目的は達成したとご機嫌で帰ってきました。

 帰省中にレンタカーを借りて高知方面への一泊旅行を予定していました。

その日がどんぴしゃり台風が来る日。前日は天気予報とにらめっこ、台風の

速度に合わせてせめて時間の調節をと思っても駄目で、夕方に宿を、夜中に

レンタカーをキャンセルしました。

 高知の雨台風はかなり凄い様子でこれならやっぱり行くのは無理だったと

諦めがついた三人です。

二人はそれでもバスで繁華街にでかけて路面電車にのったりミニレンタカーで

市内をぶらぶらしたようです。

出かける時「お母さんも一緒に」と言ってくれたけど私は言下に「ノーサンキュー」

 後で考えて、彼は殆ど初めての土地、娘も大学進学と同時にここを出てもう

三十年余り、すっかり変わった街は不案内だったろうにと優しくない自分に嫌気が

さした私です。でも楽しかったと元気に帰って来た二人をみて少しほっとしました。

 次の日も雨、婿殿が敬老の日だからお母さんにパスタを作ってあけ゜るけど食べ

ますか。というので喜んでと言うと、一人でスーパーへ行って材料を買ってきました。

 家にもあるのになあと思うものもあったけど、娘が彼流にさせたら、ということで

黙っていました。そしてお昼には美味しいパスタをご馳走になりました。

 翌日もまた雨。じっとしていられない彼が、港の近くに古民家を利用した鯛飯屋が

あるとスマホで見つけて、予約でいっぱいの所滑り込みで一時半が取れたとのこと。

弟夫婦も誘って行きました。

 私も弟たちも全然知らなかったのですが、昔のまま手も加えずなかなか風情の

ある家で、肝心の鯛めしも美味しくて、見つけた婿殿はえらく感激していました。

 こう雨に降られて何処へも行けぬのはどう考えても可哀そうと、当地の温泉に

一泊することにしました。

 ここは古い温泉で、夜遅くまで商店街の店が開いていて、ゆかた姿の泊まり客が

下駄で散策できる、日本でも数すくない温泉街だと私は思っています。


 わが家からタクシーで十分あまり。ちょっと素敵な宿を奮発しました。

 宿の外観も、従業員の態度も、部屋も料理もみんな素晴らしくて、婿殿は大満足

の様子で私もほっとしました。

 温泉街をぶらぶらして、古い神社の長い石段を上りお参りして、振り返れば遥か

西の空に沈む夕日が見えました。灰色の雲の中からやっと姿を見せたのです。


 雨に降りこめられた六日間でしたが、婿殿は「本当に楽しかった又来ます」仕事

の都合もあるのでと、娘より一足先に帰って行きました。

 二日後 娘を送って出た玄関で思わず二人が顔を見合わせました。

昨日まで蕾だった秋明菊が三輪まっ白い花を開いていました。


  「少しは気疲れもしたけれど楽しかったなあ。貴方も一緒だったらよかったのに」

 次の日、久し振りに陽のあたるリビングで私は夫の写真に呟きました。

 
 

 




 
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雨の日の白いプレゼント [随筆]

 雨の予報、降る降ると言いながらほんのぱらぱら、今日も降らなかったら

もう駄目。ご近所のみんなと空を見上げて溜息ついていました。

 ところが夜中雷交じりの雨が降り出しました。いつもなら恐い稲光も平気です。

 嬉しくて窓を開けてみました。瓦屋根に弾ける雨が音をたてて流れています。

本当に雨らしい雨は一カ月振りでしょうか。

 朝になっても雨は降り涼しい、三十度を切るのも多分一カ月振りの二十八度。

私生き返りました。昨日まで体がだるくてエアコンの中でぼーと座っていました。

 玄関に出てみると、暑さの中でしっかりと茎を伸ばした十本ほどの秋明菊の

白い蕾が、雨の中で膨らんでいます。

 どんなに暑くても季節を感じ花を咲かせる自然の素晴らしさ、この花に一入の

想いがある私は、しばらく感慨にふけってしましました。

 庭の木々も待ち焦がれた雨に勢いを取り戻したように緑色の葉が濡れて

しっとりと秋の風情がもどったようにみえました。

 元気の出た私は台所の片付けをしようと思いたち、戸棚や引き出しの整理を

始めました。雨は峠を過ぎて時々小止みになったり、雨音が消えたり。

 窓も勝手口のドアも網戸にして、心地よい風に仕事ははかどりました。

一休みしようと椅子に座った時、網戸の向こうに白いものがみえました。

地面から三十センチほどの網戸からまっ白い仔猫が真っ直ぐ私を見ています。

 身じろぎもせずにこちらを見ています。まだ大人ではない大きさで、恐がって

いる様子もありません。

「どこから来たの。こんにちは」野良猫は時々みかけることもあったのですが

こんなにじっとしているのは珍しい。まんまるい目が可愛くて、つい携帯写真を

撮りました。

 それに驚いたのかすーっといなくなりました。その間「にゃー」とも鳴かずに

犬派の私を和ませてくれました。雨降りに一人で黙々働いているばあさんが

可哀そうだったので、ちょっとお相手してくれたのでしょう。

 犬派の私ですが、何だか楽しくなり猫もなかなか良い.....と思ったり。

 夕方になり雨はすっかりあがりました。薄暗くなってから外に出て涼しい風に

吹かれて裏の辺りを歩いていて、お隣の庭の白い芙蓉の花を見つけました。

 薄暗がりのなかにいかにも夏の風情でやさしさが漂っていました。

しばし見とれたことは言うまでもありません。

 たった一日の雨で体も心も元気になった気がしてしまう単純な私です。

 明日も頑張ろう!


 
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九月の風が胸に冷たく哀しいのは [随筆]

 待ち焦がれた虫の声を今朝がた聴きました。

あの賑やかな蛙の合唱といつの間に交替したのでしょう。

 今年の夏の暑さは尋常ではありませんでした。終日エアコンの中にいると

朝には今まで感じたことのない倦怠感に襲われて、頭も体も自分の思うように

働きません。

 病気かとも思ったりしたけれど、涼しくなったり友だちと会ったりすると元気が

出るところをみると、そうでもないらしい。

 ただひたすら涼しくなる日を待っていた私。

 ほぼ一カ月振りの雨らしい雨が降って嬉しくて、飛び跳ねたいるんるんの私。

 そんな私を一撃のもとに谷底に突き落とす知らせが来ました。

 Fさんが亡くなった.....。

彼はその昔、速記の勉強をしていた頃の仲間です。仕事が終わってから夜間の

学校で年齢も性別も違う人たちが集まって、速記士を目指していました。

 楽しかった二年間、誰も専門の速記士にはなれなかったけど、何故か気の合う

五人組ができました。アルバイトでは、都合のつく人何人かが組んで、随分色々な

所へ速記士然として出かけて仕事をしました。

 後の反訳にどれぼと苦労をしたことか、それでも三人寄ればなんとか....:

 アルバイト料が入ると、食事をしたり映画をみたり、これぞ楽しい青春でした。

 その後はそれぞれの道に進んだので、年賀状で近況を知るくらいの付き合い

になりました。

 二十年も経ったころ偶然再会して奥さんも速記をしていた人だったと知り、

親しくしていました。

 十年位前に病気になり、二人で頑張っていたのに、本当に残念です。

 
 この春から半年ほど何回電話をしても連絡が取れない友だちがいました。

 昨年の私の病気の時もお見舞いに来て下さって、元気になったら食事しょうと

約束していた友です。
 
どうしたのかしらと、心配しつつ夜ならと電話してみました。

 「もしもし」いつもと変わらぬ声を聞いてほっとした私に、彼女は想像もしなかった

辛い事実を話してくれました。

 突然脳梗塞で倒れ、四カ月も入院してやっと退院したところだと。

 胸がどきどきして、一瞬言葉がみつかりませんでした。それでも元気になって

よかったと言う私に彼女は静かな口調で

「今は右半身動かない。補助具なしでは歩くことも出来ないのよ。苦しいリハビリに

耐えてやっとここまでになったけれど、こんなことなら助からない方がよかった.....」

 私は何も言えませんでした。涙がぽろぽろとこぼれました。

 彼女は可愛くて聡明で私の自慢で憧れの友なのです。優秀な二人の子供さんの

手がはなれてからは、公民館活動や民生委員も引き受け、今や地域ではなくては

ならない人材です。

 自分のことで手いっぱいの私に「貴女も何かやりなさい」とよく言われたものです。

 すぐに飛んでいきたい私でしたが彼女は喜ばないでしょう。

 「良くなったら食事しましょう」なんて絶対に言えません。

 幸い優しい旦那様がお元気なので、二人ならきっと一緒に歩いて行けるでしょう。

 今のところ私は黙って見守り祈ることしか出来ない気がします。


 一年振りくらいに、今私が一番信頼し頼りにしている友から電話がありました。

 彼と私たち夫婦とは若い時からの友なのですが今は遠くに離れていて、五年前

奥さんを亡くされたとき以来会っていません。

 嬉しくて「久し振りですお元気ですか。」つい私も声が弾みます。

 彼は昨夜私の夢を見た。本当にいい夢だったので声が聞きたくなったのだと。

 そして十分ほど一緒に住んでいる子供さんのことなど近況を話し合いました。

 「ところで彼は元気かね。」

えっ! 何? 私は一瞬うろたえました。彼は私の弟のこともよく知っていたので....

 でもそんなわけありません。

「彼ってだれのこと?....」まさか。すぐに返事はありません。

「もしかして夫のこといってるの。彼は亡くなったのよ。奥さんと二人で来てくれた

でしょう。」

 「ああごめんごめん。そうだったなあ。忘れていたんじゃないんだが...」

 なかなか会えないけどせめて電話でてもまた話しましょうと電話を切りました。

 彼が夫のことを忘れていたとは思いたくありませんでした。

若い時からの私たちを一番理解していてくれた先輩夫婦だったのだから。

 それでも彼ももう八十六歳です。ぼっかり忘れることがあってもおかしくはない。

 私は人が年を重ねることの残酷さを思わずにはいられませんでした。


 私の好きな秋の足音がもう聞こえてきたのに、夫の秋明菊の白いつぼみが

膨らんできたのに、私の胸のなかでは冷たい風がそよりとゆらいでいます。




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