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故郷の桜の花に包まれて

 朝から晴れ渡った青い空、浮き浮きと足も軽やかに駅に向かう。 私の生まれ故郷の街に近い駅まで特急で約二時間、のんびりゆるゆる走る。  早い春が来たのにそこで足踏みし続けて、桜もさっとは咲かない。 毎日一人で座っていると春とはうらはらに、何だか寂しくて病がちの友の消息など聞くと 余計に気分が滅入る。  そんな時ふと古い写真を見つけた。 おかっぱの髪に赤い鹿の子の布の入った髷をつけ、赤い着物を片袖脱いで下から空色の 襦袢の袖が見える。 それぞれのポーズでにっこり笑った七人の少女たち。  一人一人の顔を指さし名前を声に出して言いながら、懐かしくて私は涙が出そうになった。 これは小学校五年生の時の学芸会の劇中「紅葉おどり」の写真だ。  それぞれの役はこなしつつ、この踊りは別にしっかり練習をした。  学芸会が終わった翌日 隣町の写真館で摂ったもの。一里の道をどのようにして行ったのか 自家用車などない時代。 父兄や先生方も当然一緒だったのだろうが、その辺の記憶はまったくない。  バックの花の写真が美しい、写真館の広間でそれぞれのポーズを取るまで大変だった。 小一時間もかかつたろうか。子供心にも疲れ果てた思いは今も思い出すことが出来る。  写真は勿論白黒だ。でもこの衣装のことだけは、はっきり覚えている。 赤い着物と空色の袖、しっかり締めた銀色の帯。嬉しかったし得意だったから忘れていない。  しばらく眺めていると皆に逢いたくなった。この中の三人とは今でも年賀状で繋がっている。  十年前夫に逝かれて落ち込んでいた私を故郷の街に呼んでくれた。 四人で一緒に泊まって、涙にくれる私を慰めてくれた。  私は思い切って一番の仲良しだったFさんに電話をかけた。 少し前Sさんも夫を亡くしたが、Tさんにも声をかけてくれてみんなで逢ってくれるという。  話はとんとん拍子に進み一週間の後、桜も満開の時、今日私は電車に乗った。 きらきら光る瀬戸内海は波も穏やかで、いくつも浮かぶ島影も春の真ん中に。  山側の窓からはその色を変えて高く低く連なる山々。一番高く頂上に雪を頂くのは 西日本一高い霊峰石鎚山。  ここは私にとって生涯の思い出がいっぱい詰まっている大切な懐かしい路線なのだ。 あちこちに見える満開の桜が車窓を飛んでいく。あっという間の二時間。  約束の時間に約束の駅で十年振りの三人が笑顔で手をふって、私を迎えてくれた。 ここから三、四十分のそれぞれ別の町からみんな車できてくれた。  三人の、とてもとても元気そうな若々しい?笑顔に、私はもうそれだけで満足だった。 花見弁当を買ってから桜を見に行った。とにかく全山桜桜、吉野山にも引けを取らない。 人は大勢いるのに、どこからでもどこに座っても、風に散らない満開の桜が見えるのだから みんな余裕でのんびりしている。これが田舎のいいところだとつくづく思う。  大木の下に陣取ってご馳走もそこそこに、まあよく喋ること。    それぞれ家庭の事情もあったろうに、私の思いつきに快く皆が来てくれたこと、その気持ちが 嬉しくてやっぱり幼馴染はいい。それに家族の人たちの優しさ。 私たちの結んで来た七十年の友情は本物だったと、私は心の底から三人にお礼を言った。 三人もこういうチャンスは大切にしたかったと喜んでくれたのもまた嬉しかった。  二時間も花の下で、そうそうあの写真や学芸会の話も出た。 みんな覚えていたけど見たことはないと笑った。家のどこかにはあるよねえと。  夜は宴会に温泉に楽しい時間が続いた。十年前の写真を持っていったので皆に見せた。 「あれえ私らこんなに若かったのねえ」と今更顔を見合わせた。 「あのときはみんなで泣いたねえ。慰めるために集まったのにみんなで泣いてしまって」 Fさんがしんみりと言った。 あれから十年早いねえ。これからの十年のことはみんな考えたと思うが、誰も何も言わなかった。  次の日も快晴。車で街中の桜を巡り、ごはんを食べ喫茶店で喋り、心ゆくまで故郷と友情を 堪能した私を、夕方の駅でホームまで出てきて三人が手を振って見送ってくれた。  帰りつくまでの二時間、二日間の楽しかったことばかりを思い続けて嬉しがってた私。 十年前は涙が止まらず思い出のこの路線を二時間泣きながら帰ったのに。  これからも又時々逢って、みんなで元気で幸せな余生を送りたいものだと切に思った。        
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隆

70年来の友情、万感の想いがあると思います。結婚して、子供たちが生まれて、会社とか、多くの人とも通り過ぎて行った面影を探しながら、その根底には、いつもその友情があった事と思います。

ゆるゆると、友達の元に向かう足取りがとても愉しそうですね。僕も、今年は高校の同窓会があると思いますが、たかだか20年の絆です。これが、まだまだ続く事を願いたいですし、青春のお話はいつまでも尽きないものと思います。

とても素晴らしい文章ですね。白黒写真に赤い服が映える様が、とても鮮明に窺われます。
by (2019-04-12 17:33) 

dan

コメント有難うございます。
若い人に読んでもらえるだけでも嬉しいのに、コメントまでいただいて、感激です。
今回どういう訳か改行や行間がでたらめで
読みにくく、申し訳ありません。
by dan (2019-04-12 18:56) 

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