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心優しい人の家 [短編]

 美千代は接骨院の石段が苦手だ。
たった三段だけど一段が結構高い。そしていつもここで少し忌々しい気持ちになる。
 だってここに来る人は足や腰が悪い人が多いのではないか。と少し先生が恨めしい。

 美千代が膝を痛めて困っていた時、知人が好い先生だと紹介してくれたが、六十そこそこで
接骨院というと「年寄り」の行くところだと少し抵抗があった。
 それでも膝の痛さに負けて渋々やって来た。
 五十歳代の先生は腕が良いだけでなく、なかなかイケメンで優しくて話もよく聞いてくれるのに
無駄口をきいたり、他の患者の噂話などはしない。
 美千代はすっかり先生のファンなって膝が治ってからもご縁は続いている。

 あの頃は石段なんて気にもならなかった。

 あれからもう五年、美千代もりっぱな高齢者。この頃では腰も肩も時には体中が痛い。
そして石段が苦手になった。
 
 それでも今の季節になるとその石段が嫌でなくなる。
一番上で腰を伸ばして軒先を見てついにっこり笑ってしまう。

 小さな小さなお客様、小指の先ほどの濃茶色の頭が五つ行儀よくならんでいる。
「今年もはるばる来たんだねえ」
 チチチチ親鳥が帰ってくるとみんな顔中を口にして丸が五つ。美千代はつい大笑いしてしまう。

 しばらく見とれてから中に入ると
「畑中さんは燕が好きなんですね」と助手の水田さんが言って受付だけでも先にしたらと笑う。

 どうも先生と二人で、スリガラスのドア越しに美千代の様子を一部始終見ていたらしい。
中に入ると飾り棚の小さな白板には「今年も燕が三家族来ています。」ときれいな字で書いてある

 燕にはどうして「心優しい人の家」が分かるのだろう。忘れもせずに毎年迷わずやって来る。
誰に教えられたわけでもなく、家の造りだろうか、風の通り加減か。
 接骨院のコンクリートの天井と柱の狭い隙間に、何度も土や藁しべなど運んで来て器用に巣を作っている。

  美千代の家などその気配さえ見せないのに。

 それでも梅雨で気の滅入るこの季節、美千代は接骨院の燕家族に随分癒されて優しい気持に
なっている。
 
 もしかして、この気持ちがいつか燕に通じるかも。そして我が家にも。
  
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リンさん

燕を快く受け入れる家を見かけると、「優しいな」とほっこりします。
うちに来た燕さんは、可哀想に巣を作らせてもらえません。
姑がすぐに箒で壊してしまうからです。それでも毎年来るんですよ。
がんばれ!燕さん。

by リンさん (2019-07-10 19:54) 

dan

有難うございます。
ふふふ姑さん強いですね。
頑張れ燕さん。そしてリンさんも(笑)
by dan (2019-07-11 15:12) 

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