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奥様とばあや [エッセイ]

 いつもより少し早く朝の家事が終わった。

 空は真っ青で太陽はギラギラ今日も真夏日だ。
 一人住まいの私の一日は毎日同じで全く面白くもない。
 
 ふと街にでも行ってみようかと友の顔を思い描いてみたが、みんな浮かぬ顔をしている。
 この頃では用事もないのに出かけることなど考えたこともなかったのに。
 
 神の啓示だ。出かけよう。
でも暑そう、別に用事もないし。もう一人の私がぐどぐどと足を引っ張る。
 バス停までの三分が暑いだけよ。バスは涼しいしデパートはもっと涼しいと私。
その時閃いた。そうだタクシーにしょう。
 悲しい悲しい主婦の性、バスは260円タクシー1500円。でも今日は決めた。

 そうなると気持ちが華やいでいつもより少しはお洒落してみようとフアッションショー。
好きな黒のプリーツスカートに薄紫の小花柄のインナーにベージュのレースの軽い上着。
 鏡をみてまあまあじゃない。これで顔が無かったらもっといいのにと心から思う。
 
 でも奥様になった気持。

 いつものタクシーがきた。ところが残念、運転手さんが一番年配「多分後期高齢者」で
お喋りで、のんびりで運転が下手。顔に年寄りの茶色いシミがいっぱいあるので、人の顔を
覚えられない私が唯一覚えている人。
 電話した時、今出払っているので二十分くらい待って下さいと言われて嫌な予感はしていた。
こんなことは滅多にないから。
 とにかく団地の道から県道への右折がなかなか出来ない。車はポツリポツリと来るだけなのに。
そら行け!  はいっ出て! 声にならない声で叱咤激励しながら泣きそうな私。
その間彼は「今回は台風が来そうとか、今日は夏祭りだ」とか喋り続けている。
 いらいらと二十分以上かかってやっと着いた。1730円。

 デパートに入るといつもは人がいなくて恥ずかしいくらいなのに結構人がいる。
やっぱり夏休みだし、お盆も近いからだ。
 私は買い物の予定もないけど何か買いたいかもと思った。
 靴屋さんの辺りを見ていて好みのサンダルをみつけたので立ち止まったら、奥でこちらを
見ていたイケメンさんがすっと出て来た。そして「履いてみて下さい。いいでしょう」と
私が見ていたサンダルを持って来た。何て手際がいいのでしょう。
 履いてみて歩いてみて買ってしまった。何だか楽しくなってきた。

 次は地下に下りて送りものをしてから、全国の銘菓があるコーナーで訪ねてくれる友の顔を
思いながら和菓子や洋菓子を買った。肉屋さんで嫌いな肉もたまには食べなくてはと買う。
 
 ただ何となく買い物するって楽しいなあ。
いつも懐と相談して辛抱して計画的に買い物はした人生だった。
 
 「ケチの癖に欲しいもの買うときは大胆なんだから。そして必ずものにする」夫によく言われた。
 
さあもうタクシーで帰りましょうか。今なら奥様気分のままで。
 
 ちょっと待って、少し商店街も歩いてみませんか。「ばあや」の声がする。

 私が荷物を持ちますから。この商店街を15分も歩いてもう一つのデパートまで行って三千円の
お買い物すれば、バスのお帰り切符がいただけるじゃないですか。
 
のまま そうでした。私鉄デパートの特典です。そういえば私帰りのバス代払ったことないよ。
 商店街は暑いけれど歩いてみようか。

 もう半世紀以上も前の夫と私が突然現れた。
浴衣で歩いた土曜夜市。城山から眺めた花火。涼しい風が渡る堀端のベンチ。
 泣きそうになって思い出すのは止めた。

 ねえやになった私は荷物の重いのもなんのその、昔のお店など四、五軒になってしまった
懐かしい商店街を元気に歩いた。

 デパートでセールのブラウスを買ってバスのお帰り券をもらったのは言うまでもない。

 一人では食事もお茶も飲めない私は、ねえやのままで我が家に帰った。

 でもこの数時間久し振りに楽しかった。

 奥様もねえやも、ちよこっと出て来た夫も元気でよかった。

 この調子で後少しの猛暑を乗り切ろう。

 秋明菊は明かもう白い蕾をつけているのだから。
 

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リンさん

楽しいお出かけですね。
用もないのにふらりと出かける贅沢を楽しむさまが浮かんできて、何だかにやりとしてしまいました。
by リンさん (2019-08-17 12:26) 

dan

有難うございます。
たまにはこういうお出かけも楽しいでしょう。
早く涼しくならないかなあ。
by dan (2019-08-17 20:39) 

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