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逢いたい人たちに [日記]

 濃い紅色と、白とピンクのツートンカラーの花が満開になった我が家の椿。
連日の雨にポロリポロリと散っていきます。
 そしてこの花たちも私の逢いたい人たちのいるあちらへ行くのでしょう。

 あちらではお彼岸には皆で集まって色々な話に花が咲くのでしょうか。
懐かしい顔が次々と浮かんできます。

 私は長女なので弟たちは健在、遠くに住む私に月に一回くらいは「元気か」と声をかけてくれます。跡継ぎの弟は近くにいて何かと気を配ってくれるのが、何よりの私の心のよりどころです。
 
 夫の兄姉たちはすでにあちらへ。残るは末っ子の妹一人となりました。
ただ夫以外はみんな85歳を過ぎていたし、父は94歳母は106歳みなさん長寿を全うしたと私は
思っています。

 それに比べれば私の両親は早めに、特に父は59歳その悔しさは半世紀経た今も私の脳裏から
消えていません。私お父さんっ子でしたから。ふふふ。

 そしてその父を思うたびに、もしかしてみんなで私のこと待っているのではと思ったり。
若いつもりでいても、こんなことを考えるようになった私はやっぱり.....。仲間入りしたい
気もするし、もう少し待ってという気も見え隠れします。
 このところ体調もよくて
「おかしいのよ、ろうそくの灯が消える前にさっと明るくなる言うでしょう。私あれかも」
先夜電話の時娘に言いました。
「またそんなこと言って、いつかも同じこと言ってたよ。もっと前向きに考え方変えたら?」
笑っていました。世間の年寄りなみに愚痴ってるな、と思われたと思うとああ悔しい。

 今のところ元気なのだからグチグチ言うのは止めて頑張りましょう。

 ここにいれば古い友だちとも会えるし、ご近所の人たちも優しくして下さる。
今日は朝から春の陽が降りそそぎ、昨日の雨が嘘のよう。
 もうすぐ桜の花も満開になるでしょう。来週若い友人とお花見の約束しています。

 逢いたい人たちに逢うのはもう少し先にしましょうか。 


 

 
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自分らしく思う通りに [エッセイ]

 今日も朝から気持ちの良い青空です。
 ついに春が来た! と声に出して言ってみてにっこり。
 風は時折冷たいし、冬に戻りそうに寒い朝はリビングの温度計を日当たりのいいところへ。
 私は天気予報を見るのが好きで、だいたい一週間分は覚えておきたいのです。
 これは私の行動の原点といっても過言ではありません。
 このところ体調もよくて、どうしたことか「のら」の私はどこかへ消えてよく動いています。

 先日は突然にキッチンの戸棚の整理を思いつきました。
 欲張りの私が出来る限り壁面いっぱいに取りつけて、何でもかでもしまい込むのだろうと夫に
笑われたしろものです。
 あるある、不用品はとっくに処分していたつもりだつたのに、箱に入ったままの大鉢や
輪島塗のお椀。備前の湯飲みセット。今更IHに対応しない鍋などなど、笑ってしましました。
気に入って買っても「よそいき」と言ってすぐに使わない私に「よそいき」って。と大笑い
していた夫のこと思い出しました。

 ある日は玄関まわり、ドアはいつも開いている方しか開かないと五年くらい知らなくて、それ以来掃除もしてなかったのを思い出して、片方の細い部分を開けてみました。
 細かい隙間に貼っている蜘蛛の巣かごみを取り除き、水で洗い直してきれいになりました。

 その間いつも通りお雛様も飾ってひと安心。椿の花も満開です。

 あれほど毎日しんどいと落ち込んでいた一月が嘘のようで嬉しい誤算です。
親友を失った悲しみは、意識して胸の奥に封じ込んでいます。

 こんなにいい毎日、先日小学校時代の故郷の友人から久し振りに電話がありました。
つもる話が弾んで桜でも咲いたら会いたいねということに。また楽しみが増えました。
 最後に彼女が言いました。
「今は元気で一人でいるけど最後はどうするの?誰に面倒みてもらうの」
 私が今まで考えたことなくて、このところ眠る前に毎日考えていることをずばり。

「ずっと一人でいて最後は施設に入る」
 この考えは数年前施設に入った友を訪ねた帰りに捨てました。どこがどうという訳でも
なくて本能的に嫌だと思い自分でも納得したものです。

 もしまだ数年生きることになったら.....

 止めた止めたケセラセラ。

「息子も娘もいること忘れないでよ」という娘。ほんの少し「そうよね」と思っている私。
威勢のよかった私も年相応のばあさんになったかと思うと悔しい。

 いえいえ私、気を若く持って今まで通り最後まで自分らしく思う通りに生きていきたい。
 ずっとずっと昔夫と約束したように。

 三月の透き通るように青い空、今日もとても優しく穏やかな風が吹いてます。


 

 
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後ろ向きの青春 [短編]

 雨が小降りになるのを待って景子は家を出た。
駅への道は何となく気が重かったが、小一時間も電車に揺られている間に薄日がさし
窓の外に続く里山の霧が少しづつ消えると、あたり一面に咲く菜の花に春のやさしい光が
降り注いで景子の気持も少し軽くなったようだ。

 目的の駅に着いた。
何年振りだろう。辺りの様子はすっかり変っていたが、景子の胸にはあの日の深い絶望感が
昨日のことのように蘇ってきた。
 駅前の道をおぼろげな記憶をたどりつつ、ゆっくりと歩いた。


 二十三歳の春、吾郎と二人で歩いた道、喜びと不安でいっぱいの景子に吾郎の大きな暖かい
手が嬉しかった。この時二人は結婚を決め彼の両親に会いに来たのだった。
 吾郎はすでに両親の許しも得て、婚約者として景子を紹介するのだと。

 この辺りの旧家だとは聞いていたが、立派な門構えの家の前に立った時その立派さに
今更ながら景子はたじろいた。吾郎が笑ってつないだ手をしっかり握り直してくれた。
 廊下越しに噴水のある池がみえる広い座敷に座っている間、景子は緊張のあまり小刻みに
震えている自分を持て余していた。
 そんな景子の様子をみて吾郎はおかしかった。「景ちゃんでも緊張することあるんだ」と。

 程なくして現れた両親は和服を素敵に着こなし、いかにも旧家の主と言える父と美しい母だ。
挨拶が終わると
「こんな遠い田舎までよく来てくれましたなあ。」
父が低いけれはっきりした声で言い、母も
「本当に大変だったでしょう。寒くはなかったですか。」
優しい笑顔で景子を労ってくれた。

 景子も吾郎の両親に初めてのご挨拶。それも結婚の許しを得るために来たのだと固い決意は
していても、平静ではいられなかった。
吾郎が今日のことについては前もって了承を得ているのだから、何の心配もなかったのに
景子は胸の辺りがざわざわして、不安な気持ちが広がっていった。

 その時振袖を着た美しい女性がお茶を持って入って来てテーブルに置くと、そこに座った。
「えっ誰なのかしら。吾郎に女の姉妹はいなかったはずだ。」景子はじっと女性を見た。
年は同い年くらいか、物静かでいかにもお嬢様という感じだ。
「やあ千明さん、今日は又どうして」
吾郎が大声で言った。その言葉を遮るように父がもっと大きな声で言った。
「景子さんでしたな。紹介します。吾郎の許嫁の畑野千明です。私の遠縁に当たる娘で吾郎とは
千明が生まれた時親同士が決めた許嫁なのです」

 景子は動顛した。父の言葉を容易に理解することは出来なかったが「許嫁」という言葉だけが
景子の頭の中を駆け巡った。そしてぼんやりと千明を見つめていた。
「父さん」吾郎が言った。いや叫んだ。
「父さん、何て酷いことを。どういうことだ。僕はこの話初めて聞いた時に、はっきり断った
はずだ。そして父さんも千明さんも、叔父さんもこの話はなかったことにすると言ってくれた」

父は半狂乱になり髪を振り乱し泣き叫んでいる吾郎を冷ややかにみて
「吾郎落ち着きなさい。そんなに取り乱しては男らしくない。景子さんにも嫌われるぞ」


 吾郎は東京の大学を出ると故郷に帰り地元の銀行に就職した。長男が地元にいて家を継ぐのは
当然のこと、吾郎も何の抵抗もなかった。
 そこで景子に会った。景子は市役所に勤める父と教員の母、三人姉妹の真ん中でおっとりと
育った。銀行の図書室で出会った時に吾郎の一目ぼれ。交際三年で結婚の約束をした。
景子の両親は喜んで二人を祝福してくれたし、姉妹たちともすぐ仲良くなった。
 難物は吾郎の方だったが、彼は何度も話をしてやっと納得してもらえたのでとやってきたのだ。


  突然に降って沸いた不幸、二人にとってこんなに理不尽なことが許されていいはずはなかった
特に景子は今日こそ吾郎との結婚を喜んで貰えると、そのことばかり念じていたのに。

 景子の頭の中で思考するという機能が火花となって大きな爆発音とともに飛び散った。
「吾郎さん私帰ります。」
全身は震えていたが思ったより落ち着いた声が出た。両親にちゃんと挨拶も出来た。
後は何も分からなかった。吾郎の大きな声を聞いたような気もしたが、どこをどう歩いて電車に
乗ったのか、この数時間のことは景子の記憶から抜け落ちたままだ。
 
 景子は次の日銀行を辞めてこの街を出た。

 数年経って吾郎が千明と結婚したのを知った。
景子も心の通う人と出会い幸せな結婚をした。成長した二人の子供も家庭を持った。
夫と二人の間に穏やかな時が流れ、二年前に彼を見送った景子は姉妹のすむ故郷にもどり
静かな老後を送っていた。

 早春のきざしが見え始めた数日前、景子は新聞の「お悔み」欄で吾郎の名前を見つけた。
何十年もの間景子の胸の底の底にひっそりと留まっていた名前。
思いもかけず胸が苦しくなり涙が溢れた。

 あの時以来二度と会うこともなかった吾郎に会いたい。その気持ちだけでやって来た。
昔の記憶を辿り菜の花の咲く里山の道を歩いた。


 四十余年を経てたどり着いたそこには、大きな屋敷の跡形もなく更地になっていた。
あの日の辛い辛い思い出のかけらも、吾郎の面影さえもそこにはなかった。

 雨もよいの春の風がやさしく景子の髪を撫でて通り過ぎた。


 
 




 

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